M&A(企業の合併・買収)成立後の統合プロセスを意味するPMI(Post Merger Integration=ポスト・マージャー・インテグレーション)に特化した企業が始動した。その名もずばり「PMIパートナーズ」。設立したのは弁護士で中小企業診断士の北口建氏。「すべての人にとって幸せなM&Aを実現する」という経営理念のもと、買う側も売る側も満足するM&Aを増やすため奮闘する。
設立を決めた理由は
弁護士としてM&A成立後の企業からの法律相談に応じている中で、当初描いていたM&A効果を得られていない企業が多いと肌で感じていた。今後M&Aの件数がますます増加していくことは確実であるからニーズはあると確信、M&Aで買収した企業側の支援に注力することにした。今年、仲間の中小企業診断士とPMIパートナーズを設立した。会社名に『パートナーズ』とあるように、ネットワークを利用して士業など専門家と連携して、各専門家に得意分野を任せながら多様なニーズに応えていく。
特化して取り組むPMIとは
M&A効果を早期かつ確実に獲得するには、統合後の経営理念や戦略、マネジメントといった『経営』、人材・組織などの管理体制や拠点整備など販売体制、情報システムといった『業務』、企業風土や文化、従業員の意識といった『意識』の統合が欠かせない。統合作業がうまくいかないと業務上の重大ミスやシステム障害などを起こすことになる。そうすると顧客離れを起こし、優秀な人材も離れていく。業績悪化や内部対立を招き、成長力を損ないかねない。こうした『業務統合がうまくいかない』『期待したシナジーが出ない』『従業員のモチベーションが下がる』といった事態を防ぐのがPMIだ。M&A仲介業者はM&Aが成立するとビジネス終了で離れていく。しかし実際は成立後のPMIが重要になる。われわれの出番がやってくるわけだ。
失敗例も多いのか
M&Aの件数は、中小企業の後継者問題もあって増えているが、成功率は低い。あるコンサルティング会社の調査では、M&Aの成功率はわずか36%にすぎない。残りの64%は何かしらの問題が生じているわけで、明らかにM&Aに求めた目標に到達していない。
私も弁護士になる前の会社勤めのとき、同規模同士のM&Aを経験したことがあるので、M&Aの難しさとPMIの重要性をよく理解できる。これも我々の強みといえる。
それほどM&Aは難しいのか
買収側はいい会社だと思って買うわけだが、『本当に必要なのか』を分析していないことは少なくない。M&Aは自社の足りない部分を分析して他社で補うことで価値が生まれる。にもかかわらず、ただ良い案件とFAから勧められたからとか、漠然と会社の規模を大きくしたいからというのが多いが、それでは当初期待していたようなM&Aの効果が得られないことが多い。
M&Aの契約成立がゴールではなくスタートである」。M&Aの契約成立に向けて費用と労力を掛けて実行するが、契約成立後のPMIを軽視している会社が多いが、その場合に失敗することが多い。成功のカギはクロージング後のPMIだと確信している。
M&Aは結婚と同じだといわれる
異なる背景を持つ2者が一緒になるという意味で、M&Aは結婚と同じだ。ビジョンや企業文化は会社ごとに違う。違うのは当然なので、両社の社長が協議して統合後の新会社のビジョンや運営方針を決めて、従業員らに『新会社はこうだ』と伝えないと互いに浸透しない。
両社は経営スタイルも違うし、管理の仕方や人事制度、給与体系も違う。従業員の意識も違う。買い手側に何でも合わせると売られた側は反発してしまう。
中国の故事に『与古為新(古きに預かり新しきを為す)』がある。古いものと新しいものを融合させるという意味で、M&Aの売手と買手のそれぞれの古いものを生かしつつ、新会社では新しいものを生み出す。当然に買い手に合わせるのではない。社長の『鶴の一声』より、従業員と一緒に新しいものを創り出すことだ。「与古為新」、これが「すべての人にとって幸せなM&Aを実現する」ことをビジョンに掲げるPMIパートナーズの重要な価値観の一つだと考える。
ところで日本の企業風土にM&Aは合うの
日本には起業風土・文化がないので、これからの日本経済の活性化のためにはM&Aが不可欠だ。M&A件数が増えている理由に後継者不在がある。後継者不在による廃業は、従業員はもちろん、取引先などステークホルダー(利害関係者)を不幸にする。経営資源も無駄になる。中小企業のM&Aは事業承継手段としても目指すべきだ。中小企業庁も今年3月、PMIガイドラインの策定を含む『中小PMI支援メニュー』を策定した。M&Aの成立はスタートラインであり、その後の統合作業の重要性を訴えている。
経営目標は
当初数年は多くの案件を処理していくことに注力する。案件ごとにM&A後の姿は違うのでオーダーメード型の支援を重視していく。そしてPMIに特化した専門集団としてPMIの勘所を分析して、そのノウハウをM&Aの当事者が広く利用できるようにしていきたい。日本経済の活性化に貢献できればいい。
北口 建(きたぐち・たけし)
代表取締役CEO 弁護士・中小企業診断士
大手製薬会社で、予算・事業計画の作成、業績管理、資金調達・運用、税務等を担当。同社在籍中にM&A(合併)を経験し、主に会計及びシステムに関するPMI作業を担当。この時にPMIの重要性を認識。
その後、弁護士資格及び中小企業診断士資格を取得。弁護士及び中小企業診断士の立場で、中小企業のM&Aスキームの提案、デューデリジェンス(ビジネス、法務)、契約書作成、PMIなどの多数のM&A実務に関与。
「経営」×「法務」の視点から中小企業の幅広い経営課題に取り組んでいる。